各地で災害に見舞われている方々について、心よりお見舞い申し上げます。
…ということで、九州を始め各地ですごいことになってしまって心配になりますが、また、しばらく間もあいてしまいましたが皆様いかがお過ごしですか。
今回はこの時期に飲用することが多くなるスポーツドリンクと脚気についてのお話です。
子供の頃、椅子に座った状態で足をぶらぶらさせ、膝の下あたりを器具でたたいて、自然に足がピクンと動くかどうかというテストを行ったことがあったと思います。これを膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)といいますが、ピクンとしなくなると脚気と判断されます。
もうずいぶん久しく聞かない症状でしたが、それがまたここの所、非常に増えているというのです。
江戸時代は「江戸わずらい」と呼ばれ、白米ばかりを食べていたことによって脚気になっていました。明治時代も陸軍兵士が白米ばかりを食べてどんどん増え、Wikipediaによると、大正末期では年間2万5千人、昭和初期でも年間1〜2万人が脚気で死んでいたそうです。
それでもその後は原因も対処方法も判ってどんどん減っていきましたが、ここへきてジャンクフードの普及や高齢化社会によってまた増えてきたということです。しかし、まさか乳幼児が脚気になって、しかも死亡例があるなんてことは知りませんでした。
脚気は糖質過剰摂取でビタミンB1がどんどん消費され、ビタミンB1欠乏により起こる病気です。主な症状は心不全と末梢神経障害です。
ではなぜ乳幼児がこの脚気になるかというと、親がスポーツドリンクを大量に飲ませてしまうことが原因です。そして、多くの犠牲になった乳幼児は1日に1リットル以上飲まされていましたし、多い子だと3リットル以上を毎日のように飲まされていたのです。
テレビなどの宣伝で「イオン飲料=体に良い」と騙されてしまっている親も多いのでしょう。乳幼児の脚気についての記事によると「乳幼児にイオン飲料を飲ませる理由」を調べた研究では「病気の時に脱水症にならないため」が62%、「夏季に熱中症にならないため」が22%と、圧倒的多数が「脱水時の水分と電解質を補充する目的」で与えていたようでした。
また、医師の中にも、子どもや高齢者に限らず、夏場や下痢を起こした後に、手軽に手に入るイオン飲料(スポーツドリンク)の飲用を推奨する医師も少なくないと言います。
しかし、スポーツドリンクには大量の糖質が含まれていることを考えていないのではないでしょうか。
例えばポカリスエットには100mlあたり6.2gの炭水化物(糖質)が入っています。1リットルではなんと62gにもなります。しかもなぜか1リットル用のパウダーには糖質が72gと10gも多く入っているのです。
そうしてポカリスエット1リットルを毎日飲むと、その糖質を分解するために「ビタミンB1」が毎日0.1mg消費されていきます。食事からのビタミンB1摂取が少ない場合、それが数週間、数か月と続くと脚気になってしまうのです。
たとえば夏の間だけに限っても、暑くて汗をかく期間は2ヶ月からあるわけで、それだけ続けば確実に脚気になるでしょう。
小さな子、特に離乳食を食べている子に一度甘い飲み物を与えてしまうと、味付けの薄い離乳食を食べたがらなくなる子もいるそうですし、食べたがらないからといって食事の代わりとしてスポーツドリンクを与えてしまうと、それが習慣になってしまって悪循環になり、さらに飲む量が増えてしまうのでしょう。
ドリンクからの糖質量が増える一方で、まともな食事をしないことからビタミンB1をほとんど摂取しない状態となり、ビタミンB1はどんどん消費され、ついには脚気となってしまうのです。
100%のフルーツジュースなら多少ビタミンが残っている可能性はありますが、通常のジュースであっても、お菓子であっても同じことです。
栄養がなく、糖質だけの飲料や食品はビタミンB1を大量に消費していきます。もし水分補給ということであれば、それは水かお茶で十分であり、塩分が足りないのであれば塩を使えばいいのです。
僕としては、スポーツ時のスポーツドリンクであっても摂るべきではないと反対の考えです。というのも、スポーツ時に必要なのは速やかな水分補給と発汗によって失われる塩分を補えばよく、十分に食事をしていないなど、特殊な場合を除いて糖質は必要がないと考えているからです。
前述の、乳幼児の脚気に関する記事によると、ビタミンB1欠乏は乳幼児に限らず、10代でも重度のアトピーという症例があったため、白米と野菜中心の生活を続けたことでビタミンB1欠乏に至った例も報告されているそうです。
また成人の、アルコールの多飲によってビタミンB1欠乏になるのは有名ですが、最近は高齢者の食事量が減って、白米とおかずを少しだけという生活の中、だんだんとビタミンB1欠乏に陥っていくということもあるようです。
年代によって脚気になる環境は様々ですが、スポーツドリンクなどのパッケージに「乳幼児に飲ませるな!」とまでは書かなくても「飲ませる量に注意が必要」であることは、大きく記載してもいいのではないでしょうか。
そしてそれと共に、我々医療従事者もそれらについて、きちっとした説明ができるようにならないといけないと考えていますし、特に産科での、母親になる方々に対する教育も重要だと考えていますが皆さんはどのようにお考えでしょうか。